■第二話「ジンジャ」を含有する飲み物 |
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1920年発行された「清涼飲料之新研究」(倉橋謙著兼発行者 大正4年発行)の中に「清涼飲料の研究を進める為に先ず英、米、独、佛の諸国で如何なる飲料が歓迎されているかを研究した。 その結果を要約するとこの中で(6)「ジンジャを含有する飲料」に注目していただきたい。 前述の英国の香料リストを眺めるとGinger、Giger Ale、それにGinger Beerという項目がある。 「清涼飲料之新研究」にも「ジンジャは上手に造れば美味なる飲科なるのみならず、胃腸の消化をも助け世界の何れの国民にも賞味されて居るのに、日本に充分なる発達なさざるは其の製造不完全にして拡売運動の行届かざる為なるべしと思はる」と述べている。Ginger[ジンジャー・(ショウガ)]は学名をZingiber officinale(ジンジベル・オフイキナーレ)といいショウガ科の多年草、熱帯性植物である。原産地は明らかではないが、アジヤの熱帯地方と云われ、インド、中国では古くから香草科として使われていた。紀元前5世紀ペルシャのダリウス王が印度から通商大使に持ち帰らせたが、ギリシャ、ローマでは一部の食通に評価されるにとどまったという。一世紀には商人により地中海地方にもたらされ、イギリスでは11世紀にはよく知られていた。新大陸発見後スペイン人等によって広まり現在では、ジャマイカ、インド、ナイジェリヤ、中国等が主な産地となっている。 日本には古く中国から伝わり天平時代クレノハジカミ、ツチハジカミ等の名で呼ばれた。ハジカミはサンショウの古名である。ショウガは古くから胃、腎臓、肺等の維持、元気回復、頭の刺戟に薬効があり、それに催淫効果があらゆる薬効以上にショウガの名を高めた。かのノストラダムスのレシピにも出てくるという。このような背景があってヨーロッパの飲料に初期の頃から取り上げられているらしい。 この「ジンジャの飲料」と取り組むとなると中々難しい。ジンジャーエールをつくる場合、原料のジンジャーのフレーバーが産地によって全く異なるのである。これは種類が異なるのか、同じものでも気候風土で変わるのか。乾燥した根茎を粉にして糖液で抽出するのが古くは一般であったが調合の操作によっても製品の品質が変った。(現在はオレオレジンを使用するのが多いようだが上立ちの良さは粉の糖液抽出に比べ劣るのではないか)ともかく華やかなトップノートのジャマイカ産には中国産もインド産も及ぶべくもなかった。 The Champagne of Ginger Aleというのをご存知の方もおられると思うが確か1955~60年頃敬愛するカナダドライ社のジンジャーエールのラベルにあったがその頃の製品はまさに「ジンジャーエールの王様」にふさわしい風格を備えていたのを思い出す。ジンジャーエールではPale Dry(ペールドライ)とGolden Dry(ゴールデンドライ)、甘口と辛口があるのは広く知られている。 本題へ戻ろう。前述の英国の香料リスト中のGingerである。GingerAleはお分かりいただけるとしてGinger Beerとあって小さな字でStone、Glass、Brewedとある。これは何を指すか。欧州の炭酸飲料の歩みをたどると1851年イギリスのロンドンで開催された大英博覧会は炭酸飲料発展のエポックとなっている。当時のビクトリヤ皇后に指命されたシュウェップス社がソーダ水、天然鉱泉水を販売したがその中にジンジャービヤーが含まれていた。記録によるとジンジャービヤーの創始者はアイルランド、ダブリン所在のトワイト社だという。昨年夏アイルランドに渡った友人にストーンジンジャービヤーのことを聞いて貰ったが定かな返事は貰えなかった。 醗酵させた本物のジンジャービヤーはしょうがの根を粉砕し砂糖と水と酵母を加え、石(陶製)の容器中で醗酵させた。これは古くから存在した醸造酒の一種である。これからアルコールを薄めソフト化したのが清涼飲料のジンジャービヤーである。今でもストーンジンジャービヤーと云われる製品が存在するそうであるが石の容器の想いがあるからであろう。どんな味か是非飲んで見たいものである。 出典:清飲通信(平成14年1月15日号に掲載)
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