■第五話「びんについてのお話」

 前回(4)の話の始めにラムネびんの元祖と云われる「キュウリびん」のことが書かれていた。今回はこの「びん《についてのお話を一席。

 

 「キュウリびん」は明治の初期(1880年頃)、日本でこれを使ってラムネを製造した。びんは寝かせて使うもので勿論舶来品である。1809年イギリスのWF.ハミルトンの考案でハミルトンボトルと云われた。
 彼の地ではegg-end bottle卵形びんと呼ばれた。このびんが日本に初めて渡って来たのは一説には嘉永6年(1853)の黒船来航の時と云われ、浦賀に来航したペルリ監督が幕府の役人に歓待の意を込めて栓を抜いたという。「ポン」という音に思わず刀の柄に手をかけた武士。その光景が目に浮ぶ。

 安政3年(1856)米国領事として柿崎の玉泉寺に赴任したタウンゼントハリスが持参したびんが下田の宝福寺(お吉の墓がある)の記念館に保管されている。昭和40年10月1日の清飲通信に記されているが現炭酸検相談役の堀部義巳氏が現場で現物を確認している。

 四方山の話(2)に記したストーンジンジャービヤー。これは陶器製のびんに詰めてあり、18世紀にワイン、ビール、天然鉱泉、それに一部のソフトドリンクスに使用されていたという。

 1872年炭酸飲料を密封する画期的方法がイギリスに出現した。それ迄の栓は「キュウリびん」のように炭酸ガスの圧力に対し上から押えつけたが、逆に内蔵されたガラス玉を圧力で押し上げ、栓をするという方法である。

 考案者はイギリス人ハイラム・コッドでこの玉入りびんはコッズ・ボトルと呼ばれ一世を風靡した。ラムネびんの元祖である。このコッドびんは現在、地球上で日本(ラムネびん)と印度に僅かに残っているという。イギリスでは1871年から1885年の間炭酸飲料びんの栓についての特許は数百件に及んだという。

 スイングストッパーつきのびんはヨーロッパで広く用いられ有名となった。サイフォンびんも主としてヨーロッパが使いアメリカではあまり利用されなかった。

 一方アメリカでも19世紀後半炭酸飲料の栓に多くの特許が出願されている。この中に最初にコカコーラにも使われたことがあるハッチソンびんがあり長い間主流を占めていた。

    


 コカコーラは1885年発売だが、その頃はシラップを製造しソーダファンテンで炭酸水を満した。1894年の最初のびんはハッチソン栓をした「ハッチソン・ポップ・ボトル」であった。胴部は普通の円筒形で栓には指がかかるように曲げた針金が突き立っていた(1894)。栓は1900年から王冠栓にかわっている。


    【写真5】

 1890年代に入りアメリカで硝子びんの生産が始まる。びんに対する変遷が【写真4】の通りである。これより前の時代はコルク栓でありアメリカ人ウィリアム・ペインターのクラウンコルク(王冠)により飛躍を遂げることになる。その後リシール性の高いスクリューキャップへ変化することとなるが、それにしても王冠の発明は偉大であった。

 ところで前述の玉びんの玉をマーブルストッパーというが、マーブルとは大理石風に縞模様の入った玉をいい、無地透明な硝子玉についても使われた。日本でもこの玉を造る工場が大阪にあった。明治に入って機械化されたが玉の直径に差異が生じラムネ玉びんに使えるものをA玉、不良品をB玉といった。B玉は再び熔かされたが、頭の良い商人がいて玩具問屋に売るようになった。これがビー玉という名の由来という説がある。

 イギリスでは日本より早く1882~89年頃コツズボトルでマーブルストッパーが登場した。この時代イギリスでもコッズボトルを割って中のマーブルを取り出し遊んだため、びんは工場から出っぱなしで戻らなかった。いずれの国も同じであった。これには大いに困った。そこで玉を卵形、勾玉状にして玉として転がらないように工夫したという。ビー玉のお話しである。

 最近は骨董屋の店先に古びんが並ぶ。骨董的価値が認められて来たという。ガラスびんは確かに素材感それに光と共存する美しさから独特の個性がある。何となくしっとりとした情趣が漂いそれでいてどっしりとした存在感がある。手にとった時の冷たさと重さ、それにガラス本来のきらめき、愛くるしい型に心がなごむ。

 我が家に古びたワインびんが2本、1.5ℓと750mlのずんぐり型がコルク栓と一緒にワゴンにのっている。何か愛着がある。ある日忽然と消え去った銀座のレストランの想い出とともに棄てられないままになっている。

 参考資科:びんの話(山本孝遺著)、暮らしの中のガラスびん(GK道具学研究所)
       :山崎三吉氏資科(写真2、3、4)
 出典:清飲通信(平成14年3月1日号に掲載)
 執筆者:近藤 毅夫氏(一般財団法人日本清涼飲料検査協会規格技術委員)


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