■第十話「シャンパン(シャンペン)の文字使用禁止」

 シャンペンサイダーの商品名は明治初期から使用されており、また、ソフトシャンパンは1947年(昭和22年)に中小企業が開発した「ポン」と音がでる無酒精の炭酸飲料で大衆品としてクリスマス祝祭用及び家庭等で消費が増えシーズンオフ商品として定着するようになった。

 1966年(昭和41年)12月20日 在京フランス大使館から外務省を通じ申し入れのあった「シャンパン文字使用禁止に対するフランス大使館口上書」によって「シャンパン(シャンペン)」の名称が原産地の誤認を生じさせる表示としてフランス原産地名(シャンパーニュ州)を今後防止するようにとのことで、当時の通商産業省貿易振興局検査デザイン課より呈示されたのが最初である。

 この問題が発生したのは1958年(昭和33年)10月31日にリスボンで改正された「工業所有権の保護に関するパリ条約」および「原産地表示の防止に関するマドリッド協定」を1965年(昭和40年)8月21日に日本が批准し、これが日本について効力を生じることになったためである。

 シャンペンサイダーの名称は明治初年から輸入していたシャンペンエッセンスの使用によるものであり、また、ソフトシャンパンの名称は1947年(昭和22年)シャンパンにヒントを得て「ポン」と音がでる炭酸飲料の特徴に着目したもので中小企業が開発した日本独特の飲料である。

 このシャンパン(シャンペン)文字の使用禁止は清涼飲料業界にとっては大きな問題となって名称の解釈等について専門家の意見を聞いて各方面に1967年(昭和42年)5月に業界の実情を述べて今後ともシャンパン(シャンペン)名称を使用できるよう交渉方の陳情を行ったのである。

 その陳情要旨は
(1)飲料業者の製品は、すべて清涼飲料水に属するものであってアルコールを含有していないので、酒類とは明らかに区別できるものであること。
(2)シャンパンなる表示は取引上必ずしも原産地の表示をなしていない。シャンペンの文字を使用するようになった由来は、飲料の香料として明治初年より輪入されていたシャンペンエッセンスを使用したことによるものであり、シャンパンワインに似せて作られたものではないこと、シャンパンワインとシャンペンサイダー、ソフトシャンパンとの商品間に誤認が生じたことは皆無であること。
(3)炭酸飲料のラベルには、シャンペンサイダー、ソフトシャンパン等の表示の他に製造者の所在地が明記されているばかりでなく、ローマ文字以外に必ず日本文字が使用されており、一見して原産地は日本でありフランス国でないことを明確に表示している等であること。
 しかし、日本がマドリッド協定を批准し、これが日本について効力を生じたことから不正競争防止法を条約の規定に適合させるように改正され、また、特許庁のシャンパン(シャンペン)商標に対する方針がマドリッド協定に従って処理されることになり、シャンパン(シャンペン)の文字を商標の一部に表示することは禁止されることになったのである。

 これについては、関係方面に陳情してきたが日本が既にマドリッド協定を批准している以上、また、国際裁判(イギリスに於ては敗訴)ということになり、すでに洋酒酒造組合でも協定書に調印している現状も踏えて、(社)全国清涼飲料工業会では1973年(昭和48年)8月開催の役員会で、また、全国ソフトシャンパン協同組合(昭和49年全国シャンメリー協同組合に吊称変更)もシャンパン(シャンペン)の表示禁止を決議し「ソフトシャンパン」を「シャンメリー」と改称して現在に至っている。

 このような経過のうえシャンパン(シャンペン)文字使用問題についてフランス側と折衝の結果、「シャンパン(シャンペン)」文字は使用しないことで協定書に調印し、明治時代からのシャンペンサイダー、また、戦後、製品開発したソフトシャンパンの名称は1973年(昭和48年)9月以降は使用しないことになったのである。

 ①貨物の原産地虚偽表示の防止に関するマドリッド協定(説明)

この協定は、原産地虚偽表示の防止に関する同盟条約の規定にあきたらないフランス、ポルトガル等原産地表示の保護に重大な関心を持つ国々が、同盟条約とは別個の協定を締結して原産地表示の広範囲な保護を図るために提案し締結されたものである。この協定の主要な内容は次の通りである。

「この協定が摘要される国のまたはその中にある場所を原産国または原産地として直接または間接に表示している虚偽表示を有するすべての生産物は前記の国のいずれにおいても輪入のさいに差し押さえられる」(第1条)この規定によって日本製のものに「MADE IN U.S.A」と表示するようなことが許されないのみならずオランダ以外の土地で生産された酪農品に風車の図形を使用するなどの表示も間接虚偽表示として取締り対象となるわけである。

この協定は、また第4条で「各国の裁判所はいかなる名称がその通有性のためにこの協定の適用を除外されるかを決定しなければならない。ただし、葡萄生産物の原産地の地方的名称は本条に明示する留保に含まれない」と規定しある原産地名称が普通名称化した結果何んでも使用することができるものであるか否かは各国裁判所の決定に任せているが、ぶどう生産物の原産地名称についてはそれが通有性を有するためこの協定の適用を除外されるという決定を行なえないとしている。

このようにぶどう生産物だけを特別扱いにしているのは特にフランス、ポルトガルなど、ぶどう酒の生産販売に強い関心を有している国が、この協定の主唱国であったこととヨーロッパにおける原産地虚偽表示がぶどう酒について最も多かったということに由来しているようである。

しかし特定生産物についてこのように各国の裁判所の権限を制限する規定については加盟国のうちにも反対意見がかなりありリスボン会議においてもこの制限の範囲を酪農製品とかたばこ等に広げようとする改正案がこれらの国々の反対によって否決されたのである。(1891年の上記マドリット協定には日本は当初不参加、1951年連合国との平和条約の規定に従って1953年これに参加)

 ②不正競争防止法(条約の規定に適合させるように改正している)
不正競争防止法第1条第3号

商品若ハ其ノ広告二若ハ公衆ノ知り得ベキ方法ヲ以テ取引上ノ書類若ハ通信二虚偽ノ原産地ノ表示ヲ為シ又ハ之ヲ表示シタル商品ヲ販売、拡布若ハ輸出シテ原産地ノ誤認ヲ生ゼシムル行為同法第2条第1号(特定行為の適用除外)商品ノ普通名称(ぶどうヲ以テ生産セラレタル物ノ原産地ノ地方的名称ニシテ普通名称卜為リタルモノヲ除ク)若ハ取引上普通二同種ノ商品二慣用セラルル表示ヲ普通二使用セラルル方法ヲ以テ使用スル行為又ハ之ヲ使用シタル商品ヲ販売、拡布、若ハ輪出スル行為(不正行為の差止請求権及損害賠償、信用回復のための処置などの適用されない行為として規定されている場合の一例)特定行為の適用除外とは(ぶどうヲ以テ生産セラレタル物ノ原産地ノ地方的吊称ニシテ普通名称卜為リタルモノ)を指すものと思われる。

Champagne 直正のシャンパン(シャンペン)はフランスのシャンパーニュ州(地方産出の白ぶどう酒である。普通アルコール分12%、発泡性、炭酸ガス含有

 ③特許庁のシヤヤパン(シャンペン)商標に対する方針

旧登録商標には、洋酒(雑酒)としてシャンパン(シャンペン)を普通名称として(商品名)登録されているものあり、また清涼飲料にもシャンペンサイダー(三革便サイダー)としての登録もある。

現在においてはマドリッド協定に従って処理することにしているので、シャンパンの文字を商標の一部にあらわし、または、ぶどう酒などの商標に、シャンパンの文字があるときはすべてこれを原産地表示の不正なものとして出願を拒絶する。ただし、出願人がフランスのシャンパーニュあたりの真正なぶどう産地の出願にシャンパンの文字を使用しているときはこれを認める。(公報登録第678396号を参照)

日本の場合、シャンパンの文字を商標の一部に表わしこれに「Made in Japan《の文字を附記しても原産地虚偽表示とみなし商標法第4条第16号に規定する「商品ノ品質ノ誤認ヲ生ズル虞アル商標《として出願を拒絶される。

 出典:清飲通信(平成14年6月1日号に掲載)
 執筆者:堀部 義巳氏(一般財団法人日本清涼飲料検査協会相談役)


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